INSIDE STORY VoL .15 球団、ファン、地域の「三方良し」を球場から発信する。

千葉ロッテマリーンズ ボールパーク統括室 田中 功貴さん
BASEBALL

千葉ロッテマリーンズ ボールパーク統括室

「スポーツに関わる仕事」と一口に言っても、多種多様だ。今回は、パシフィックリーグマーケティング株式会社が運営するスポーツ業界専門の転職エージェントサービス「PLMキャリア」を通じて転職された方にインタビュー。転職のきっかけや仕事の魅力を紹介していく。 

 


行政と同じ思いを共有する


 

プロ野球球団の経営・運営に関わる業務は多岐にわたる。ここまでは想像の範囲ではないだろうか。元々競技経験やファン歴が長ければ、チームの強化、編成といった現場に近い業務はイメージがしやすい。また球場での観戦が好きだという方は、グッズやチケット、イベントなどファンサービスに関わる仕事も身近に感じられるだろう。いずれもプロ野球に限らず、プロスポーツチームで仕事をしたいと考えた場合、ある程度の予想をつけて目指せるものだ。しかし、今回お話をうかがった田中さんは、転職活動の際にまったく想定していない業務があることを知ったと言う。それが行政との折衝という仕事だ。

 

「プロ野球という華やかなイメージよりはかたい仕事、立ち位置、職種です。ボールパーク統括室という部門の中で、いわゆるプロ野球の試合にかかわる興行を運営するチームと、球場及び外周のエリア管理、マネジメントをする施設管理という二つのグループに分かれていますが、その後者が私の担当となります」

 

千葉ロッテマリーンズに限らず、プロスポーツにおいて、スタジアムそのものや周辺の土地が行政のもの、公共財であることは多い。千葉ロッテの場合、球場そのものは千葉市、外周及び周辺エリアは県立公園の中に位置しており、千葉県が管轄している。そのため施設管理の仕事では、球団の中と外との調整が必要になる。

 

「プロ野球球団としての試合や興行の目線で、社内からは“こういうところにブースを設置したい”、“こういう場所でイベントをしたい”といった要望があります。その場合、市や県との調整、折衝、申請が必要になります。ある意味では社内では行政の立場になってブレーキをかける役割でもあります」

 

ブレーキと言っても、決して議論を止めたいわけではなく、行政側の考え方や前例を踏まえ、より実現に近づくためのプランにもっていくためのブレーキだ。そして時には、行政に対して球団の思いを伝えるアクセル役にもなる。実は行政側も熱い提案を待っている。


「球団としてはファンサービスの充実、千葉県、市側は幕張エリアを活性化するという課題があります。お互いのニーズを実現していこうという、いいスキームで進んでいます」

 

お互い目的地に向かって安全に、できるだけ速くたどり着くためのアクセルとブレーキ。つまり、ブレーキあってのアクセル、アクセルを生かすためのブレーキと言えよう。例えば、2020年にはこんな課題も持ち上がった。

 

「新型コロナウイルス下で球場の安全管理や衛生管理、防疫体制をどうするのか。それができていないと、千葉ロッテマリーンズだけではなくて、施設や土地の所有者である千葉市、県にとってもイメージダウンになってしまいます。球団と行政ですり合わせながら取り組んでいきました」

 

千葉ロッテがこの地に来てから2021年で30年。2005年からは、球場や公園内の一部エリアについて球団が行政から管理を委託される指定管理者となった。

 

「球場内、外周ともににぎわいをつくっていくうえで、一体管理になってとてもやりやすくなりました。これも今までかかわってきた方々が信頼を築いてきてくださったからこそ。それがあって、今のかたちで成り立っています。自由度が増すなかで、信頼感はそのままに盛り上げていきたいですね」

 

では田中さんが思う、この仕事のおもしろさとは?

 

「私からは、プロ野球は華やかな世界に見えていました。別の世界。でも入って思ったのは特別ではなく、実質的には100人以下の中小企業。それでも社会的な注目度は高い。地域の公共財としても機能しています。その反面、自治体からも地元の方からも求められているものが多く、そして地元に支えられているという面もあります。私としては、ただ球団がたくさんお客さんを入れて、事業が潤って、チームが勝ってだけではなくて、地元の皆さんがいて、それを支える行政があって、三方良しという言葉じゃないですが、しっかり地域とともに発展していく、そういう目線でかかわれることがおもしろいと感じています」

 

 


回り道が近道にもなる


 

田中さんは学生のころからスポーツビジネスで働くことを視野に入れていた。

 

「長くサッカーをやっていて、私の人格形成にはかなりスポーツからの影響があると思います。就職も第一希望はスポーツ。でも新卒ではなかなか難しかったですね」

 

スポーツビジネスの世界はなかなか新卒採用がないという現実に直面し、最終的にはスポーツとは関係のない大手総合IT企業に就職。そこでキャリアを積んだが、スポーツビジネスへの熱は冷めなかった。とはいえ、スポーツビジネスの実際や現実はわからず、自分がどう働けるのかというイメージも漠然としていた。

 

「そこで2018年、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタルという、社会人に向けてスポーツ経営人材の育成と知恵の集積を目指すことを目的としたプログラムに参加しました。スポーツに関わる一流の方の講義、実際のプロスポーツの現場での経験などを通じて、知識や知見を得て、できる、できないが見えない状態、ぼやっとしていたイメージから自分の中の解像度があがりました」

 

いよいよスポーツビジネスでのキャリアがスタートするも、イメージしていなかった行政との折衝。しかしそこで、今までのキャリアで培ってきたことが実は大切な経験だったという気づきがあった。

 

「前職では医療機関への電子カルテの直販営業に従事。その後、全国各地の医療ネットワークの構築支援をしていました。いわば生活インフラにかかわる仕事で、地域にとって欠かせないものですし、行政の人たちとの関わりもありました。その経験は生きていると感じます」

 

前職の経験が新しい場所で生かせる。これは大きな武器と言える。経験から見えてくるものも多く、それは本人にとっても迎え入れる球団にとっても財産である。

 

「前職は大企業でしたからふり幅は大きいですね。でも裏返せばとてもポジティブ。前職は組織が大きく、スピード感や仕事の裁量は大きく異なると感じています。ここではベンチャー気質で手を上げればやれることが多いです」

 

さて、田中さんが考えるこの仕事に必要な力、思いとはどんなものだろうか。

 

「二つあって、まず指示待ちではなく自発的で、自分で課題を見つけられる人であること。そして視座を高く持てること。自分の専門性だけの視野では間違った意思決定をしてしまうことがある。自治体、営業、チケットなど、それぞれ専門性が高い職種の人たちの立場や考え方を知ることが大切でしょう」

 

お互いを尊重しながら、専門性の高い人たちと課題解決に向けて一緒に取り組む。野球チームと同じなのかもしれない。最後に今後について聞いた。

 

「個人的には球場の今後のこと。球場も30年経って必然的にどうしていくかという議論が出てきます。本拠地のあり方、地域のランドマークとしてのあり方。私自身が千葉県の出身であり、他人事ではないと思っています。今の仕事をしていて、千葉ロッテマリーンズが生まれた故郷に貢献しているというのが見えて、余計に他人事ではありません」

 

「三方良し」は近江商人の心得で、売り手良し、買い手良し、世間良し、つまり売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売ということ。スポーツビジネスが幸せにするものは、想像するものより大きなものなのかもしれない。

 

♢PLMキャリアの詳細はこちらからご覧いただけます。

https://career.pacificleague.jp/

 

文・岩瀬大二

 

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